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「みんなが安心している当たり前のこと」が一番恐ろしい敵である

今回入荷のコニャック達をテイスティンググラスとコニャックグラスで飲み比べ。
数人でのテイスティングによる結果は「好みはそれぞれバラバラ」である。一見テクスチャーの同じに見えるプロプリエテもグラスが違うとまったく違う印象を受ける。面白い。
だから僕が「このお酒にはこのグラスが一番だ」といってもそれはまったく意味をなさないのである。ただやるかやらないかの差はかなり大きい。だからこそその一杯に説得力があり、お客様にも安心して任せていただけるのであろう。

当店で人気のグラスシャンパーニュ。グラスに関しては僕の好みを押し付けている形になるが、好みは人それぞれであるのは承知していながらもやっぱ「自分が色々試して一番美味しかったもの」を出したくなるのが自然である。
うちで選んでいるシャンパーニュはコク豊かなものが多い。フルートシャンパングラスでも美味しいがバルーン型のシャンパングラスのほうが旨みをはっきりと感じ取れる。フルート型のシャンパングラスはカヴァやクレマン、シャンパーニュならばきりっとした酸のあるシンプルなテクスチャーのブランドブランが適しているように思える。バルーン型のグラスもいくつかあり当店ではシュピゲラウ・アディナ(これを基本にしている)、バカラ・オノロジー、ロブマイヤー・バレリーナと三種類用意している。是非飲み比べてもらいたいです。オノロジーに関しては同じシャンパーニュでも骨格と男らしさを演出する要因がありそう。典型的な黒葡萄メイン物が相応しい。ロブマイヤーは泡のポテンシャルの体感数値をブーストする作用があるようだ。きめ細かな泡を持つ上質キュヴェのアサンブラージュ物が楽しそうである。色調の濃いシャンパーニュやムニエ比率の多いものは逆に白ワイングラスのほうが美味しく感じることが多い。
メーカーが決めているグラスの名前はあくまでも目安であり、それにとらわれる必要はないのである。先日ドイツのシュペートブルグンダー(フーバー2005だったかな?)を飲んだが、ピノグラスやブルゴーニュグラス(大、小)で飲んでも「単なるチャーミングな若いピノ」の印象しか受けなかったが、比較的小さめの白ワイン用グラス(リースリング向けとのこと)で飲むとキノコや腐葉土、プルーンやブルーベリーのニュアンスが感じ取れた。これにはさすがにビックリ。最近で一番ビックリしたグラスマジックであった。
要は僕達がそれを楽しまなくてはお客様にはその楽しさは伝わらない。でもそういう過程をお客様に説明する必要は無い。むしろするべきではない。得た知識、技術を得たままぶつけるのではなく、お客様と接する過程でそれが違和感無く自然に組み込まれることによって新たな感動を感じてもらうことになるのではないだろうか。お客様や同業の前で「俺はこんなに努力しているんだ!」と叫ぶことは、ゲームセンターに行って「俺は昇龍拳のコマンド入力できるぞ!」と叫ぶのと同じくらい滑稽である。

アインシュタインは
「理詰めで物事を考えることによって、新しい発見をしたことは、私には一度もない。 」
と言う言葉を残した。私達は目に見えない強固なものに知らず知らず縛られている。視点を変えると思ってもない結果(良くも悪くも)に出くわす。情報が溢れ過ぎ、ちょっと手を伸ばせば誰でも満足や感動が得れる今、未知なる感動を体感し、それをお客様に還元できるヒントは「まだ見ぬもの」「新しいもの」を探すことではなく、「当たり前とされているもの」にメスを入れることではないだろうか。
by leclub-matsuyama | 2008-06-12 15:55
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