Jフォンの男

およそ10年前くらいの話だろうか・・・朝の九時に突然電話が鳴った。もちろん僕達の仕事の人間は寝ている時間だ。朝九時といえば皆様で言う深夜二時くらいだろうか。僕は寝ぼけながら電話に出た。すると電話口で男の声がする。
「Jフォンです。村田様でしょうか?」
僕はドコモユーザーなのでJフォンから電話があるわけがない。どうせ勧誘の電話だろう。そう思って電話を切った。するとまた電話が鳴り、男の声で
「村田さん、あなたの保険証が偽造されていますよ。」と。
その言葉に僕の目は一気に覚めた。電話口の男の言い分はこうだ。
“何者かが村田英則を名乗り、保険証を偽造し、その偽物の保険証で携帯電話を契約し電話代を滞納している”
説明を聞いた僕はびっくりし、当然それが僕の仕業ではないことを説明した。Jフォンの人も何となく偽造だろうと思っていたらしく、一応確認で僕に電話したという。Jフォンの男が言う。
「手元に偽造の書類と保険証のコピーがありますので村田様自身で確認しませんか?できればこの件に関して会ってお話したいので。」
いきなり知らない人と会うのはリスクが高すぎると思った。「もしかしてこの電話の男が僕を陥れようとしているのでは・・・・」そう思ったので話し合いを警察署内で行うことにした。
警察に行き事情を説明し、場所を使わせてもらうことになった。
待ち合わせ場所に来たJフォンの男は僕に書類を見せてきた。
「これが偽造の書類と偽造された保険証のコピーです。」
書類には僕の名前、住所、電話番号、生年月日、など事細かに書かれている。おそらくこれらの個人情報は郵便物を盗んで情報を得たのであろうとのこと。それを丸暗記して携帯ショップに出向いたのであろう。ただ職業の欄に「ゴルフ場経営」と書かれていた。ゴルフ場経営て。そして偽造された保険証のコピーを確認した。僕はそれを見て違和感を覚えた。保険証の期限は普通3月末になっているはずなのに、よくみると期限が僕の誕生日になっている。あまりにも情報を知りすぎているので出来る限り使いたかったのであろう。間抜けなミスだ。一応僕の保険証を持参していたのでそれを見せた。Jフォン側は納得し
「これで完全に納得しました。実は・・・・本来は保険証のコピーでは携帯電話の契約はできないんですよ。コピーじゃなく本物の保険証でなければだめなんです。おそらくショップ店員が契約のノルマを達成するために保険証のコピーでも契約に応じたのでしょう。今回のこの事件で発生した電話料金はもちろん村田様にお支払いいただくことはありませんからご安心ください。その偽造男の電話の使用も今日で止めますので。」と言った。確かに携帯電話会社同士の契約戦争は加速化していたのでショップ店員たちのノルマは増える一方だろう。禁じられていると分かっていてもノルマ達成を強く押し付けられてやらざるを得ない状況であったのではないだろうか。僕はこのショップ店員と白木屋で朝まで語りあったわけではないので、このショップ店員の本音が分かっているわけではないのだが、まあどちらにせよ結局これらは会社の手段が招いた結果なのであろう。
話し合いが終わりお互い警察署を後にした。
数日後、再びJフォンの男から電話があった。
「あのぅ、あなた本当に村田さんですよね?」
僕は「何言ってるんですか?この前会ったじゃないですか!」と言った。するとJフォンの男は
「そうですよね。分かってはいるんですけど、さっき“村田”と名乗る男から電話があって『なんで電話止めるんじゃ!電話止められたら仕事にならんだろが!』という怒りの電話があってパニックになってしまって・・・」と言った。僕は「相手が何者か知りませんが僕が村田ですからね。」と伝えると「はい、そうですよね。わかりました。すみませんでした。」と答えて電話を切った。
それから一週間後、何とauから電話があった。「村田さんですか?私auのものですが、ちょっと確認したいことがありまして・・・・」
僕はピンときて「もしかして携帯料金の滞納の事ですか?実は前回Jフォンでも同じことがありまして・・・・・・・」と偽造保険証にことについて説明をした。auの男は「そうでしたか・・・・たしかにこちらの手元にある保険証のコピーも契約書も村田さんのおっしゃる通りになっています。もし宜しければ会ってお話したいのですが。」と言ってきた。再び警察署でauの男と会った。そのauの男はルクラブに飲みに来たことがあり僕のことを知っていた。そのせいもあって話は早く進み「これから先、村田様には迷惑をかけることはありませんのでご安心ください。」との言葉を残してauの男は去って行った。
事の発端は僕がポストの中の郵便物を盗まれたということ。マンションのポストは集合ポストでカギがかかってないタイプなので郵便物を盗むことは容易だ。そのポストには自分でカギをつけることができるようになっているので、この先このようなことがないようにと僕はポストのドアにカギを取り付けた。実際にポストにカギを取り付けているのは約50軒中で僕を含め2~3軒。ほとんどの部屋の住民はポストにカギをつけていない状態である。

事件から一週間後、仕事を終え家に帰った。冷蔵庫を開けるミネラルウォーターがなくなっていたので近所のコンビニに買いに走った。コンビニに行く前にチラっとポストを見て「ここに犯人が来たんだよなぁ・・・」と思いコンビニに急いだ。コンビニでミネラルウォーターを買い、マンションの入り口に入った瞬間、信じられない光景を見た。マンションの集合ポスト約50軒分のドアがグニャグニャに折り曲げられているのだ。僕と数軒の部屋がポストにカギをかけているのだが、カギをかけているポストのドアは何もされてなく、カギをかけていないポストのドアだけがアメ細工のように曲げられていた。カギをかけてないポストのドア全てだ。僕がコンビニに行っている間はたかが5分くらいである。背筋がゾッとした。僕のこの出入りの時間帯に実は犯人とニアミスしているということだ。いや、犯人は僕がこの時間帯に出入りしているのを知っていてわざとこのような暴挙に出たのかもしれない。携帯電話が使えなくなった事に対しての怒りのアピールであることは間違いない。僕はすぐに警察に相談した。しかし「そのような状況では現行犯でなければ捕まえられないので気をつけてパトロールします。」いう言葉だけしか聞くことができなかった。
それから仕事からの帰り道が怖くなった。だからといって誰も守ってくれるわけでもない。「自分の身は自分で守るべきだ。」そう思った。しかしその考えが引き金となり、後にとんでもない騒動に巻き込まれるとは思ってもみなかった。

続く
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by leclub-matsuyama | 2009-07-23 19:40
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