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ある一定以上の意思レベルを持ったバーテンダー向きの本

最近のカクテルに関する本のほとんどが「つまらない」内容のものだと感じていた。
一般向けの本はたくさん出ている。これはこれでカクテルなどのお酒の取っ掛かりにはいいであろう。その類の本ではなく私達の創作意欲を駆り立てる本というものに出会った記憶がこの数年間無かった。
 有名店の有名人が書いた本もいいが、あまりにも理論的なことを書くあまり、実際の営業中にも出来ないような神がかりなことを書いてしまっている場合が多い。権威を落とすのは勝手なのだが、この本を見てそちらに向かう人間の気持ちの根底を察してほしい。「出来ないことを書かないで欲しい」というのが本心。加えるならば僕もそうならないように気をつけたい。
最近の個人的な方向としては「スタンダードカクテル回帰」「いわゆるB級スタンダードというものを見直す」「登場回数が少ないために省かれたり、無いものとされるお酒を仕入れ、再検討する」という感じ。これがとても面白い。家に帰って勉強できなくなるくらい仕事後にカクテルを作って飲んでいる。当然、マティーニ、ホワイトレディー、ジントニックの練習もいいが、若手バーテンダーには是非この辺りのカクテルの面白さを実感してもらいたい。フェルネブランカカクテル、アカシア、アップ・トゥー・デート、コンコルド、ボンベイなどのカクテルを「ああ作った、こう作った」「シェークで作る?ステアで作る?」などという話をお店を越えてしてみたいのが本心。
今回読んだ本はまさにその感じの本である。この本に書いてあることが本当に「いいことか!?」と言われたらそうでない場合が多いが、物の観点やアプローチ、グラスの選択、写真のセンスなどは特筆すべきであろう。
僕が言いたいのは、「この本を読んで何を思うか」だろう。その何かをつかみ取ることが出来かどうかはその人次第。この本の中に真実があるのではなく、この作者も意図していない行間の読み方をすれば、バーテンダーとしての何かが少し変わるような気がする。土着系のバーテンダーにはこの意味は分からないであろう。むしろこの本を読むことによって悪いほうに作用するのは間違いない。彼らには是非読まないでおいて欲しい。
 お酒は時代によってボトルも味も容量も変わる。この変化に気づきながらレシピを代えていくのは当然であろう。「俺は20年間バーテンダーをやっている」と偉そうに言うのは構わないが、その20年間何の気づきも無く20年間カクテルのレシピが変わらないのは僕としては信じられない。この本はそこの努力が見受けられます。まあ努力といってもそれは僕としては当然なんですが、その「当たり前のこと」さえも出来ない人間が罷り通っていること自体に憤りを感じるのであります。
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この本を鵜呑みにするのではなく、この本に書いていない何かをつかみ取って欲しい。例えるならばこの本には「アラスカにはシェルトリューズVEPを使用する」と書いてある。これを見て「じゃあうちもVEPを使おう」というのが鵜呑み。試しに作るのは構わないが、ただそのままお店のスタンダードとして採用するようなバカげたマネだけは止めて欲しい。簡単に言うと「視点を変えて熟考しろ」そういうことだ。
もう一度言うが写真のセンスも最近の本の中ではずば抜けている。これは大切な要因である。ただちょっとアーティスティックになり過ぎていて、カクテルそのものが分かりづらいという見方もある。そういう意味を踏まえてもプロ向きであり、趣味とはいえ深くスタンダードカクテルを勉強したいという「熱い人間」向けの本である。
by leclub-matsuyama | 2006-10-30 19:06
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